アーカイブ・フィルム特有の課題

世界中のフィルム・アーカイブと言われる施設には、100年を軽く超えるような歴史的に大変価値のある古いフィルムが収蔵されており、これらは将来の世代に受け継いでゆくことが求められています。数十年もの時を経たフィルム素材は劣化が進み、耐用年数の限界を迎えようとしています。

今我々は決断しなくてはなりません。

 

  1. コンテンツをデジタル化する
  2. 複製フィルムを作る
  3. 消失するに任せる

 

このうち、フィルムスキャンやデータ変換によってコンテンツをデジタル化することには、他の選択肢にはない多くのメリットがあります。第一にデジタル化されたコンテンツは扱い易く、編集が容易で、一気にたくさんの顧客やメディアに向け配信が可能になります。第二に、目的が、短・中期的なデータ復旧にあるのか、あるいはデジタル修復技術を施した長期保存にあるのかに依らず、用途に応じた最新のデジタル・フォーマットでの保管が可能になります。

では以下で、実際のアーカイブ・フィルムの持つ課題と解決策を探っていきましょう。

 

用途別フィルム素材に適した処理内容とは

 

用途ごとに使われるフィルム素材の特徴を表1にまとめました。

ここで分かるとおり、アーカイブ・フィルムを扱うことは、新作フィルムやDI(デジタル中間ファイル)を扱うのとは違います。新作フィルムであれば、使われているフィルム素材はバージン素材だったりオリジナルカメラネガ(OCN)だったり、機械的に良好な状態なため、フィルム送りについてはISO基準に従った処理が可能です。

一方アーカイブ素材においては、バージン素材の利用率は大変低く、フィルムの傷みは激しく、収縮や撓み、歪み、座屈、パーフォレーションやエッジの劣化や欠損など様々な機械的問題をはらんでいます。

 

表1 用途別フィルム素材の特徴
経年フィルムに見られる課題 コマーシャルまたはDI素材での発生率 アーカイブ素材での発生率
未使用フィルム 不適
経年フィルム 不適
収縮
歪み
屈曲
座屈
接合部の損傷 中~高
パーフォレーションの損傷 中~高
パーフォレーションの欠損 中~高
エッジ部の痛み 無し 中~高
エッジ部の破損 中~高
擦過傷

 

アセテートフィルムにおける収縮の問題

このよく知られた現象が起こる原因はいくつか考えられますが、主要な原因について衆目の一致は見ていません。素材の特質に始まり、パーフォレーション、フィルム感光乳剤、現像行程、ロールの巻き方の強さ、保管場所の環境、温度・湿度管理、あるいは、最初の現像所からアーカイブ施設、そして保管庫に至る物理的移動の影響まで、フィルムに影響を与える要素は限りなくあるからです。

 

一般にフィルムの直線方向の収縮率は、新しいもので0.5%程度。5%を超えるものも散見されます。中には10%近く収縮してしまったケースもあり、多くのアーカイブでは4%の収縮率がデジタル化へのネックとなり、収蔵フィルムの一部が手付かずのままとのことです。

〔結論〕フィルムスキャナは5%の収縮率をクリアするようなスペックが必要

 

歪みと座屈

この問題の原因の一つは、アセテート素材の腐敗またはビネガー・シンドロームにあります。腐敗の原因は様々に考えられ、高温多湿な環境もその一つです。フィルムのベース部分が収縮すると、感光乳剤面の座屈を引き起こします。するとフィルムは、縦横共にカールし、歪み、座屈します。アセテートから発生したガスが強い異臭を放ちます。そして放出された酢酸はそばにあるフィルムを腐敗させるため、劣化したアセテートフィルムは他のフィルムから隔離する必要があります。これを怠るとアーカイブへ致命的な影響を与えることになります。

〔結論〕フィルムスキャナは歪みや座屈を生じたフィルムを想定して、様々な厚みのフィルムを安定して送ることができ、傷んだフィルムを優しく取り扱うための性能が必要

 

パーフォレーションの破損や欠損

アーカイブ・フィルムにおいては多くの場合、パーフォレーション・ホールが破損や欠損しています〔図4参照〕。これは、スプロケットやピン仕様の機器(フィルム映写機やテレシネ機器)を繰り返し使用したことによる損傷の可能性があります。

パーフォレーション・ホールがフィルム基材の断面を減少して膜面構造を効果的に弱めることで、フィルム基材の張力はピークに達します。

湾曲してXXされたスキッド板の使用はさらに断面の減少を助長します。このとき同時に加速と停止による張力の増加が起きた場合は、パーフォレーションの損傷およびフィルム本体の破損や断裂の元となります。

パーフォレーション・ホールを覆うように不適切にフィルムが接合されていると、接合部から破損するケースも多く見られます。

〔結論〕フィルムスキャナの巻き取りには余裕が必要。慢性的なスタート/ストップ操作は避ける。フィルム張力の調整機能、脆弱な結合部への圧力除去、パーフォレーション・ホールの欠損や損傷を補い、さらに常にフィルムと機材間に摩擦が生じさせないための機能が必要。

 

接合部の損傷と劣化

経年したフィルム尺においては、たとえ接合状態が完璧であっても、この部分はフィルム全体の中で最も弱い箇所と言うことができます。温度や湿度、使用される薬品などフィルムの保管環境次第では、セメントと超音波による接合部は経年により破壊される傾向にあります。一方、テープによる接合の場合はフィルム本体を剥がしてしまいます。

〔結論〕フィルムスキャナの巻き取り部は、フィルム張力については、低くまた調整可能とし、フィルムを巻き取りのために湾曲させる角度は限定的にするなどの仕様必要。また、送りスピード調整、劣悪な接合部の影響によって生じるフィルムの厚みや幅の変化に対する柔軟性も必要。

 

ホコリ除去

新品のフィルムであればフィルム送りに関する心配は無用ですが、使い込まれて消耗したフィルムであれば、経年した膜面や付着したホコリなどの害を除去する必要があります。

これがDIスキャンであれば、スキャン後の処理として費用もリーズナブルと考えられるかもしれません。しかし、時間と費用が最優先されるアーカイブ事業において、その選択肢はありません。たとえ将来的に再利用の可能性があるとほのめかされた場合でも。

誤った巻き取り装置の使用によって、走査領域の目に見えるホコリの生成状況は悪化します。

典型的なのは、ピンあるいはスプロケット駆動スキャナを使った場合、フィルム巻き取り時にパーフォレーション・ホールに機械的摩擦が起きるため、フィルムが摩損したり、あるいはスキャン領域に小さな飛沫を飛ばすことがあります。その結果、汚れの斑点がデジタルマスターの一部として取り込まれてしまいます。

〔結論〕アーカイブ・フィルム・スキャナには、ピンあるいはスプロケット駆動フィルムスキャナで起こるような、フィルムとサーボ巻き取り部間に摩擦が発生しないような構造が求められます。

 

アーカイブ・フィルム用スキャナに必要とされる機能まとめ

  1. フィルム収縮率最大5%まで扱えること。巻き取り速度、フィルム特性などの測量および自動調整機能
  2. 歪みや座屈を生じたフィルムでも扱えること。巻き取り部と走査領域は様々な厚みを持ったフィルムにも対応可し、優しく扱い、走査中はブレを生じず安定してスキャンできること。
  3. 頻繁なスタート/ストップの繰り返しを避け、調整可能な低めの張力でフィルムを送るなど、劣化や欠損したパーフォレーション部分へのストレスを最小限にとどめることができること
  4. 調整可能な低めのフィルム張力、ローラー・ゲートはフィルムの折れ曲がりを最小限に止める、送りはスピード調整可能、問題のあるつなぎ箇所によって幅や厚みが一定でないフィルムでも扱えること。
  5. フィルムと機械間の摩擦を避ける。

 

以上の要求を満たすテクノロジーとは?

スプロケットまたはピン仕様のスキャナ

市場にはこれまで多くのスプロケット/ピン仕様のスキャナが投入され、成功をおさめてきましたが、表2にあるとおり、これらの転送方法ではアーカイブ・フィルムに要求される機能を満たすことができません。

これまでスキャナ製造メーカーが主なターゲットとしてきたのは、テレビコマーシャルや劇場用映画のDI部門で使用されるような未使用のOCNフィルムでした。スキャナには、走査時に映像がブレることのないよう、パーフォレーションにピンをしっかり噛ませてフィルム送りを安定化する必要がありました。

DIのように未使用で良い状態のOCNにおいては、この手法はフィルムを縦横方向にしっかり固定するには有効なものでした。ところが、古く劣化したフィルムや、歴史的価値の高いフィルム・アーカイブにおいては、このピンとスプロケットによるソリューションはフィルムに対し過大な負荷をかけることになります。

 

表2 方式別機能比較
条件 ピン/スプロケット式 キャプスタン式
5%超の収縮時の対応 特別なピン/スプロケットが必要。ただし、縦横移送安定性に欠ける
異なる収縮率が混在時の対応 不可 可 – 自動調整
異なる厚みが混在時の対応 限定的
異なる幅が混在時の対応 限定的 可 – 限度あり
頻繁な送りと停止操作 push & pull operation 中断なく移送
パーフォレーションへの接触/ストレス パーフォレーションに接触 なし – 光学的パーフォレーション検出
欠損パーフォレーションへの対応 限定的
フィルムと機器間の摩擦 あり なし – 非接触ローラー・ゲートが摩擦を回避

 

ピンやスプロケットを使って巻き取る方式では、フィルム素材の摩滅は避けられず、それはアーカイブ・フィルムの保管者にとって重大な損失を意味するため、このアプローチを経年したフィルムへ採用することは避けなければなりません。

 

キャプスタンおよびローラー・ゲート方式

表2にあるように、キャプスタン/ローラー・ゲート方式のスキャナは、経年劣化したフィルムに最適の仕様といえます。DFTのScanityはこのキャプスタン/ローラー・ゲート方式を採用したスキャナです。

 

ローラー・ゲート

摩擦や磨耗を最小限に留めるために、DFTによるアプローチでは、フィルムが通る道筋はすべてローラーで構成されており、固定用のガイド(スキッド板やガイド用のエッジ)は一切使われていません。(図6参照)さらに精密ローラー・ゲートが、35mm、16mm、8mmと異なるフォーマットのフィルムを、かつてないほどスムーズで安全に扱います。

図6 Scanityのフィルム移送システム

 

キャプスタン駆動と光パーフォレーション検出

デリケートで経年したフィルム素材において、ストレスを抑えたスムーズな巻き取りは何より大切です。Scanity HDRではゴム・コーティングのキャプスタン駆動部を採用することで、この問題を解決しました。キャプスタンは、優しく弛緩した非接触のフィルム送りを可能にする一方でポジションの不安定さという課題が付きまといますが、Scanityではこれを、非接触型の特許を取得した「光パーフォレーション検出システム」の利用により克服しています。また専用に開発されたカメラ技術がフィルム送り時の安定性を査定し、この情報によって業界最先端の縦横画像安定性およびリアルタイム走査スピードを実現します。

図7

 

まとめ

Scanity, Scanity HDRには、長年にわたる調査研究のもと開発された最先端のキャプスタン駆動フィルム移送システムの搭載により、ローラー・ベースのLGA(Lens Gate Assembly)方式(特許申請中)を実現しました。

この方式の採用により、扱いの難しい経年劣化したフィルムに柔軟に対応つつ、リアルタイムに至るまで任意の移送速度において高度な縦横画像安定性の提供を可能にしました。

Scanity, Scanity HDRを通して、歴史的文化的価値の高い映像を次世代に繋ぐことが私たちの使命です。

 

表3 Scanityの仕様
条件 Scanity / Scanity HDRの仕様
5%超の収縮時の対応 搭載サーボシステムにより、5%超の収縮に対しても自動調整して対応可
異なる収縮率、厚み、幅が混在時の対応 可 – 自動調整
頻繁な送りと停止操作 中断なく移送
パーフォレーションへの接触/ストレスまたは欠損パーフォレーションへの対応 光学的パーフォレーション検出により非接触転送が可能
フィルムと機器間の摩擦 なし – 非接触ローラー・ゲートが摩擦を回避し、ホコリの発生を最小限に抑える